林業のサイクルについて
地拵え
一連の森林施業の一番最初に行うことは、実は苗木の植付ではありません。
苗木を植え付ける前に、植栽予定地内に散乱している前生樹の枝葉や幹、根などを一箇所(植栽予定地が広い場合は数か所)に集め、植付作業の邪魔にならないように積んでおきます。
これらの作業を、「地拵え(じごしらえ)」と呼びます。
また、前生樹を皆伐してから時間が経っている場合は、雑草木が侵入していますので、刈り払いの作業も必要となります。
植え付け
地拵えが終わると、苗木の植え付けの作業へと進みます。
苗木(裸苗)は主に100本単位のコモ巻きで届けられるので、現場で荷解きをし、「苗木袋」と呼ばれるリュックに詰め替えます。
そして、唐鍬と苗木袋を背負って植付予定地まで登り、植付作業を行います。
苗木の植付本数は、植付する樹種や目標とする林型によっても変わりますが、1haあたり3,000本(概ね1.8m間隔)を標準として行っております。
現場には水がありませんので、唐鍬で穴を掘って苗木を設置し、土をかぶせた後に良く踏んで空隙をなくし(土極め)、活着を良くします。
裸苗は根がむき出しになっているので、苗木が傷まないようにこの一連の作業は時間との戦いです。
植付時期については、樹種や植え付け場所、斜面の向き、標高等の条件にもよりますが、春植え(3月上旬~5月上旬)が最も活着が良く、次いで秋植え(11月中~下旬頃)となっています。
それ以外の季節の植え付けは、乾燥や高温/低温により活着率が落ちるので避けた方が良いとされています。
また、最近では「コンテナ苗」も出回り始めています。
こちらは野菜のポット苗と同じように、根が張った状態の土ごと持ち運び、植え付けるものです。
専用の器具を使うので植付の手間が少なく済み、植付時期の制約をあまり受けないことや、初期成長が良い点が長所となっています。
下刈
植え付けた苗木(植栽木)は、そのままにしておくと半年も経たないうちに雑草木に埋もれてしまいます。
そのため、植栽木に十分な日光を当てるには、被圧している雑草木を刈り払う必要があります。
この下刈作業は、主に刈払機(棹の先に円形の鋸刃が回転する機械)を用い、雑草木の生育が一番旺盛な夏場に行います。
風のない良く晴れた日は、草むらの中は湿度、気温ともに周囲よりも高くなるうえ、作業は傾斜地で行うことが多いので、相当の体力が必要となる過酷な作業です。
非常に大変な作業ですが、この下刈作業をしっかり行うかどうかで、その後の植栽木の生育状況が全く変わってしまう、重要な作業でもあります。
この作業は、植栽木が雑草木に負けないほどの背丈になるまで(おおよそ7~8年)毎年行われます。
また、その後もツル性植物による巻き付きがあると、葉による被圧や締め付けによる樹幹の変形の可能性があるため、定期的なツル切りも必要となります。
当組合では、空調服(内部にこもった熱い空気を効率的に排出するためのファンがついている服)を導入しており、従業員の疲労軽減に役立っています。
保育間伐・除伐
植栽木が生長するにつれ、樹幹は肥大し、枝も伸長するため、次第に林内が混み合ってきて、1本1本に十分な光が行きわたらなくなります。
そうしたときに、将来の価値が望める木(将来木)に十分な光が確保できるよう、曲がっていたり、生育が悪い木(劣勢木)を伐採して、林内の光環境を改善する作業を行います。
これを間伐と呼びます。
残された立木は、間伐によって出来た林冠の隙間に枝を伸ばし、より大きく成長します。
一方で、間伐が遅れると林内は暗くなり、立木の下枝が枯れ上がっていきます。
下枝が枯れ上がり、梢端にしか生き枝がついていない状態では、風雪害に対する抵抗性が低くなります。
なお、既に間伐が遅れている林分については、間伐によって更に風雪害への抵抗性が下がるとされていますので、伐採率を下げて、早めに樹幹を閉鎖させるような施業をこまめに行う方法で調整を行っています。
その方法でも間に合わない場合は、皆伐再造林をお勧めしております。
また、ヒノキなどは枯れ枝を自力で落とさないので、次第に下枝が混み合い、光環境が悪化します。
枝打ちは無節で円柱に近い(完満な)材を生産するにも不可欠な作業です。
適切に枝打ちを行わないと、梢端に行くほど急激に細くなる「梢殺(うらごけ)」状態の部分が多くなります。
梢殺状態の材は、元口(根元側)と末口(梢端側)の直径差が大きくなるので、柱材にしたときに歩留りが悪く、材としては高値が付きづらくなっています。
間伐は良質材の生産の上で欠かすことのできない重要な作業ですが、良質材の生産以外にも、
・林内の風通しを良くする
・地面(林床)に光を当てる
といった効果もあります。
林内の風通しが良くなると、病害虫によるリスクを軽減でき、
林床に光が当たるようになると、林内に草本や灌木が侵入し、下層植生を形成することで土壌の流出を防ぎ、生物多様性の向上にも貢献することになります。
間伐作業はチェンソーを使って立木を伐倒、枝払い、玉切り、片付け(伐倒した丸太が風雨で転がり出さないように、伐根に引っ掛けて留める)という順に進みます。
間伐材は基本的に林内に残置となります。
初回の間伐を行う時期としては、一般的に植え付けから15∼20年程度経過した頃ですが、その頃には前生樹の根も分解が進み、林地の土壌を捕縛する力が最も低くなる時期と言われております。
伐倒した丸太を横にして立木や伐根にかけておくことで、土砂の流出を防ぐ効果があり、また、多少ではありますが、それら伐捨て材が分解されることにより、林地土壌に養分を与える意味合いもあるとされています。
搬出間伐
保育間伐を何度か行い、立木が十分に太ってきたら、いよいよ収穫の時期です。
収穫といっても、全て伐って(皆伐)しまうのはまだ先で、搬出間伐は「間伐で伐倒した木のうち、出荷できる材木を出荷する」という考え方で行います。
この考え方を「劣勢木間伐(下層間伐)」と呼びます。
逆に「優勢木間伐(上層間伐・収入間伐)」というものもあり、この場合は素性の良い、市場価値が期待できそうな立木から優先して伐倒し、市場出荷を行います。
どちらの間伐の場合にも、材木を出荷するには作業道と土場が必要となります。
作業道は、伐倒した木を林内から運び出すための搬出路となるだけでなく、造材や積込みなどの作業場としても使用されます。
土場は、作業道を使って運び出した材木をトラックが集荷するために、所有者ごと、樹種ごと、出荷先ごと、径級ごと等に分けて椪積みをする場所です。
作業道、土場ともに、林地の地形や、林地の境界、周辺施設等の状況をもとに設置の可否を検討しています。
当組合では、長伐期施業の観点からも劣勢木間伐をお勧めしております。
また、「間伐材」だからといって、木材として悪いものであるとは限りません。
飽くまでも、生育時点で欠点があったり、他より生育が悪かったために伐倒の対象となった木というだけであり、木材に加工した際に低質なものになるということではありません。
「間伐材」とは、樹木(山林)の生長量の範囲中で生産された、持続可能な木材ということができます。
主伐
一連の林業の流れ、一番最後を飾るのが「主伐」の作業です。
「主伐」とは育ててきた山林を伐採し、木材として市場に出荷する作業です。
長年育ててきた山林をお金に換える、大切な作業です。
従来は、50~60年程度で主伐(皆伐)を行い、再度植え付けを行ってきました。
主伐を行うと山林は立木のない状態となるため、早急に次の苗木を植え付けることが必要となります。
植付の作業やその後の保育作業には苗木代や下刈等の費用が掛かるので、主伐によって得られる売上とその後必要となる費用が見合わない場合などでは、主伐を先延ばしにして、間伐の期間を長くとる「長伐期施業」を行うこともあります。